昔の事だ。

マリブは19歳だった。
地元では有名なホテルのフロントで働いていた。
そのホテルの常連客に成川(仮名)という男がいた。
成川は自称、青年実業家のヤクザだった。
多分45歳くらいだった。
大人数の宴会を仕切ったりラウンジやスウィートを利用したり羽振りのいい男でホテル側も特別扱いだった。
フロントで働いていたマリブはただの客として扱っていた。どちらかというと嫌いなタイプの男だった。

ある時、成川がフロントの女の子たち6人を食事に招待してくれる事になった。
マリブは予定があったので断った。
成川はわざわざ日程を変更した。
とても断れる空気ではなかったので渋々いくことになってしまった。

当日、料亭に案内された。
美味しい食事と雰囲気でみんな楽しそうだった。
マリブは彼氏と食べる牛丼の方が100倍おいしいと感じていた。つまらない。
マリブはお酒を口にしなかった。
ビール、日本酒、焼酎、ウイスキー用意されていたお酒はマリブの飲めないお酒ばかりだった。
それに、彼氏と逢う約束をしてたから解散した後、車で彼氏の住む隣の市まで行く予定だったのでお酒は口にしなかった。
料亭で解散のはずが、もう1軒飲みに行くという話しになった。マリブは食事のお礼を言い帰ると伝えた。

成川は、マリブが帰るなら解散すると言い出した。
女の子5人の表情が変わるのがわかった。
結局…説得されてしまった。
彼氏の家に電話をかけて遅くなると伝えた。

2軒目は当時人気のあったカフェバー。
雰囲気はよかった。
なるべく成川から離れて座った。
成川は6人の女の子それぞれに合うオリジナルカクテルをバーテンに注文した。
キザな男…。気持ち悪い…。

マリブはバーテンに車だからお酒は飲めないからジュースで適当に作ってとこっそり伝えた。

女の子の前に綺麗な色のカクテルが並んでいた。
マリブの前にも綺麗な水色のカクテルが置かれる。
みんな、はしゃいでいる。
…早く彼氏の家に行きたいのに…
マリブはイライラしていた。目の前のカクテルを一気に飲み干した。
…にがい…お酒が入ってる…???
バーテンの方を見る。
バーテンは背中を向けて遠ざかっていく。
なんで…?


気が付いた時は知らないホテルのベットの上だった。
頭が重い…しかも全裸だ。
うそ…やられちゃったのかなあ…?
解らなかった。

部屋に成川が入ってくる。
慌ててシーツで体を隠すマリブ。
頭はパニックだ。

「逃げられないよ。服も靴も無いんだから」

必死で抵抗した。
殴られても抵抗した。
…だけど、成川はあきらめなかった。そして犯された。

屈辱だった。口の中は血の味。
その時、フラッシュが光った。
成川がポラロイドカメラでマリブを撮影した。
さっきまで気が付かなかったが刺青が肘の先まで入っている。まるで服を着ているようにみえる。
抵抗する力が残っていなかった。顔をそむけるのが精一杯の抵抗だった。

服を返してもらいタクシーに乗ってホテルを出た。
帰りがけ、成川は異様に優しかった。写真を返して欲しいと訴えたが当然渡してはくれなかった。
タクシー代だと封筒を渡された。支払いの時中を見ると10万入っていた。

彼氏の家に電話を掛け今日は行けないと言った。
泣き出しそうなるのを必死でこらえた。

次の日、ホテルに出勤した。
仲の良かったメグミに昨日の事を聞いた。
酔ったマリブが寝てしまい、カフェバーの奥の従業員のスペースに寝かされて、成川がタクシー代だと言ってバーテンに1万渡したからみんなは安心して成川とラーメンを食べに行き解散した。
メグミが大丈夫だったかと聞いたので明るく笑って大丈夫だと言うしかないマリブだった。

悔しい。
許せない。
でも、みんなに知られたら恥ずかしい。この職場に居れなくなるかもしれない。
忘れよう。でも、写真はどうしよう…。


夜、仕事が終わって駐車場に向かうと成川がいた。
全身の血が泡立ったような気がした。
「話がしたい。人目があるから移動して話そう」
それぞれの車で近くの喫茶店の駐車場に移動した。

 昨日は乱暴な事をして悪かった。
 前からマリブの事が好きだった。
 自分は金持ちだから付き合えばいい思いをさせてやる。

そんな事を言っていた。

 マリブは昨日の10万を成川に封筒のまま返した。
 写真を渡してくれ。
 渡してくれなければ警察に訴える。

車から降りずに成川に伝えた。
成川は怖い顔で言った。

「お前は本当に解ってないな。明日、昨日のホテルに夜9時に来い。フロントで俺の名前を言えば部屋は解る。来なかったり警察に言ったりしたら昨日の写真をお前のホテルに送りつけてやる。警察なんか役に立たないぞ!恋愛のもつれだと言えばそれまでだからな!」

悔しさと怒りで震えていた。
成川はマリブが怖がっていると思ったのか
「お前が解ってくれればいい思いをさせてやる。」
と言って帰って行った。
絶対許さない!言いなりにはならない!

考えた。
必死で考えた。
マリブは19歳。ラッキーな事に未成年だ。
相手はヤクザ。
大丈夫…警察は助けてくれるはず。
最悪の場合、写真が職場に送りつけられてくる。
郵便物をチェックしてるのは事務員の明子さんか仲良しのチーコ。多分、そこで止められる。
もし、他の人に見られても平気。
成川にもう一度やられる位なら社員全員に見られても平気。

決心して警察に電話した。
青少年何とか相談室につないでもらった。

対応してくれたのは警察官は藁科さんという若い男性だった。
事情を説明する時、声が震えた。
藁科さんは優しく、根気強く聞いてくれた。
マリブは泣きながら説明した。
ずっと泣くのをガマンしてたから、泣き出したら止まらなくなってしまった。
やっとの事で事情を説明した。

藁科さんは本当に親切な警察官だった。
事件にしてしまうと恥ずかしい思いをするし、親にも話さなければならない。解決するまでに時間もかかるし、場合によっては職場にも話さなければならない。
呼び出されているホテルに一緒に行って写真を取り返して二度とマリブに近づかないようにしてあげる
と言ってくれた。
安心して全身の力が抜けたような気がした。

心の準備をしてホテルに行く2時間前に喫茶店で藁科さんと合流した。
藁科さんは正義感の塊って感じの人だった。
暴力団担当の刑事をもう一人同伴して来たが一緒に行っても大丈夫かとわざわざマリブに聞いてくれた。
成川の事を調べたら色々出てきたらしい。

ホテルに行く前に一度電話をかけてそれを録音する事になった。
不謹慎にもマリブはワクワクしてしまった。
マリブには2人の警察官が付いている。
成川はマリブが警察に相談したなんて夢にも思ってないだろう。

9時10分前、ホテルに電話を掛けた。
さすがに緊張する。
フロントが成川に電話を回した。
マ「今、近くまで来ています。」
成「来てくれたんだね。早くおいで」
マ「お願いがあるんですけど。」
成「なんだ?」
マ「昨日みたいに暴力振るわないで下さい。」
成「ああ。言う事聞いてくれれば乱暴な事はしないよ。」
マ「あと、昨日無理やり撮った写真、返してください。」
成「綺麗に撮れてるからもったいないなあ…。」
マ「お願いします。嫌なんです。」
成「わかったよ。返すよ。」
マ「じゃあ、今から向かいます。」
成「早くおいで。」

藁科さんに100点だって褒められた。
録音も無事できた。

ホテルに着いた。
刑事さんがフロントに話をつけて3人で部屋に向かう。

部屋のドアをノックする。手が震えていた。

成「マリブか?」
マ「はい。まりぶです。」

ドアが開くのと同時に刑事さんがすごい勢いで部屋に入っていった。成川のどなり声が聞こえる。
固まっているマリブの手を藁科さんがつかんでエレベーターに向かう。
ホテルを出て近くの喫茶店に入った。
藁「大丈夫?」
マ「大丈夫です。」
藁「よく頑張ったね。あの刑事が話をつけてくるからここでちょっと待とう。」
窓の外をサイレンを鳴らしたパトカーが通り過ぎる。

制服の警官が喫茶店に入ってきて藁科さんに封筒を渡す。

藁「写真が入ってるから確認して。僕はトイレに行ってくるから。」

全裸のマリブ写真だった。
目が覚める前の写真もあった。
まるで死体が写ってるみたいだった。

藁科さんに何度もお礼を言った。
その後、成川はマリブのホテルには二度と現れなかった。もちろん連絡が来る事もなかった。

落ち着くまでしばらく掛かったけど、すぐに普通の日常に戻った。
その時の彼とは事件の後すぐに別れてしまった。彼とエッチする事が出来なくてギクシャクして、マリブが離れてしまった。
記憶には残っているけど、終わった事だ。

マリブは中学の時にも犯されかけた事があった。
その時、近所の警察官のおじさんに助けてもらった。
警察に相談すれば何とかなるって思ったのも、その事があったからかもしれない。

色んな人に感謝しなければ…。

特に藁科さん…すごく頼もしかった。
ありがとうございました。

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